【2冊目】『「読まなくてもいい本」の読書案内~知の最前線を5日間で探検する~』を読んで
知人がめちゃくちゃ面白いと言ってたので
早速2日遅れのブログです。。面目ない!
3日坊主が頑張る読書日誌、2冊目は『「読まなくていい本」の読書案内』です。
この本を知ったきっかけは、知人が書いた読書メーターのレビューです。
この知人、本当に本をよく読まれているようなのですが、この本を大絶賛していました。読書家がオススメするなら間違いないと思い、手にとった次第です。
本の内容としては、「複雑系」、「進化論」、「ゲーム理論」、「脳科学」、「功利主義」といった、今熱心に研究されている学問のイントロ的な内容となっています。
結論から言うと、期待以上に、本当に面白かったです!
複雑系
第一章は「複雑系」についてです。
恥ずかしながら、「複雑系」と言われても、それが何なのか、この本を読むまで知りませんでした。結論、ここで書かれていたことは、世界に存在するあらゆるものは共通の構造を持っていて、その構造こそが「複雑系」と呼ぶということです。
複雑系とは、具体的にはどのような構造になっているのでしょうか?複雑系は、いわゆるハハブ・アンド・スポークのかたちになっています。ハブ・アンド・スポークとは、物流用語で、直行便ばかりだと無数に航路が必要になるが、ハブ空港を設ければ航路を圧倒的に少なくすることができます。
下の図では、左がハブ・アンド・スポークのモデルで、右は全てを繋いだものです。ハブ・アンド・スポーク型の方が線が少ないのが一目で分かると思います。
このハブ・アンド・スポーク型をした複雑系は、簡単な法則を繰り返すことによって、非常に複雑なかたちになって現れます。生物が良い例でしょう。どんなに複雑な器官でも、アデニン・チミン・シトシン・グアニンのたった4つの塩基からなるDNAからできています。このDNAがシンプルに分化していくことで、非常に複雑で、いまだに化学が解明できていない脳や神経ができるのです。
このような構造は、生物だけでなく、あらゆるところで見られます。市場経済や地形、生物の進化までも複雑系をなしているのです。複雑系を研究すれば今解明されていない謎が解明出来るのではないかと、多くの優秀な研究者が研究に励んでいるそうです。
進化論
第二章は「進化論」についてです。個人的にはこの章が一番面白かった。笑
ここでは、特に面白かった話をいくつかのトピックにまとめます。
生物は血縁度を最大化するようにできている~包括適応度~
生物界では、ダーウィンが提唱した「種の起源の法則」では説明できないことがありました。代表的な例は、働きアリや働きバチに見られる利他性です。個体の繁殖の最大化を図るのであれば、自ら子を産まずに女王の世話をする行為は説明することができません。
この問題を解決したのはハミルトンが発見した、包括適応度というものです。これが何かというと、生物は自らの子孫をたくさん増やすように進化するのではなく、自らの血縁度を最大化するように進化しているという法則です。要は、自らの血縁をたくさん残すのであれば、自ら子を増やすだけではなく、兄弟姉妹を増やすという戦略もありえるのです。そしてまさに、働きアリや働きバチは、後者の戦略をとることによって種を残してきました。
自然は、人間の知が及ぶことはないものだと考えられてきたのに、この法則によって生物の生態が数学的に記述できるようになったのです。実際に、イギリスの生物学者のジョン・メイナード=スミスは、あらゆる生物の行動をコンピュータを用いて数学的に説明していきました。ここから、本の中で知のビッグ・バンとも称される、社会生物学が誕生しました。
生物界にある市場取引
投資理論は、生物学者のトリヴァースが提唱したものです。人間が行う市場取引は貨幣を媒介しますが、人間以外の生物は貨幣を用いません。トリヴァースは、生物が貨幣ではなく、複製された遺伝子の数で効用を図っているのだと考えました。
代表的なものが、「投資理論」です。これは、生物が子孫を残すのに、コストを払っていて、そのコストの大きさによって子育てにかけるコストが変わるという理論です。例えば、魚や昆虫は、一度に大量の卵を生むので、そのうち1匹でも大人になれば、子孫を残すことができます。このように子孫を残すのにコストがかからなければ、甲斐甲斐しく世話をするようなことはしません。一方、人間を含む哺乳類は、子を産むのに長い期間を要し、一度に大量に産むことができません。従って、子を育てて次の子孫を残してもらうために、大切に育てるのです。
「互恵的利他主義」も生物界の市場取引の一例です。肉食の大きな魚が口を大きく開けると、ソウジウオがやってきて、歯に残る食べかすを食べます。これは、ソウジウオに歯をきれいにしてもらう代わりに、食べかすという報酬が発生する取引として見ることができます。
このような、他の動物との取引を通しての互助関係も、社会生物学で説明ができるようになりました。
心の進化~進化心理学~
進化心理学とは、身体と同じように、心も進化の過程でできたとする学問です。
本の中では、「愛」は異性と関係を持ち、子孫を残すためにこころにプログラムされた感情だと記されています。そして、男性と女性は異性に対する感情が異なることを両性の生殖戦略の違いによって説明します。
一般的に、男性は多くの女性と関係を持ちたいという感情を持つ傾向があります。これは、男性が精子を放出するのにコストがかからず、より多くの女性と関係を持つことが、自分の子孫を残自らが産める子の数も限られます。従って、女性はその限られた機会を大切に扱おうとするため、慎重に相手を選ぼうとします。
進化心理学は、文学で何度も描かれてきた「愛の不毛」を簡単に、しかも無機質に説明することができるのです。
ゲーム理論
第三章は「ゲーム理論」です。「囚人のジレンマ」等で言葉とその意味についてはなんとなく知っていたのですが、それがどうしたという印象でした笑
しかし、経済学が、このゲーム理論からミクロ経済学が進歩し、さらには世界の現象を統一的に記述するポテンシャルをもつことがわかりました。
そもそもゲーム理論とは
ゲーム理論は、利害関係の相手と取引をするときに最適な戦略をお互いが考え、お互い満足するところに落ち着く(均衡)ことを理論として示すものです。
ゲーム理論は、経済問題を数式化することを目的にして作られました。冷戦などの国際関係を説明するのに極めて優れた理論となったものの、経済を汎用性を持って説明することができませんでした。
「人間の非合理性」から生まれた行動ゲーム理論
ゲーム理論が経済問題を説明しきれなかった理由は、理論で前提とされている人間が完全に合理的な判断をするからです。しかし、現実では人間は合理的ではありません。時と場合に応じて、理性と直感(本のなかでは直感が進化の過程で生まれるのものであることが例示されていて面白いです!)を使い分けて行動するのです。
人間は非合理的であることを前提として生まれたのが「行動ゲーム理論」です。行動ゲーム理論では、人間は限定合理的的なものだが、ゲームを繰り返すことで学習し、1つの均衡に収斂するというものです。手触り感がある人間が前提とされることで、経済学は社会学や文化人類学、歴史学と融合することになります。
理論なしに解を得る、統計学
この世界はゲームの集合として捉えることができます。植物や動物や人間は自分の利得を最大化するためにゲームを行っているのです。これがモデル化できたら世界を統一的に記述できるのですが、あまりに複雑なため、現状実現することはできません。
複雑な事象を解明することなく解を得られるものとして発展したのが統計学です。今や統計学は、脚本を解析して大コケを防いでいるそうです!
脳科学
第四章は、「脳科学」です。
人間の意識について言及されていて、「えーそうなの!?」と思った内容がいくつもありました。ここでは最も面白かったトピックを紹介します。
右脳と左脳には別の人格が存在する。
重度のてんかん患者への治療手術をする際に、右脳と左脳の橋渡しをしている脳梁という器官を切除することがあるそうです。この手術をすると、左で視覚したものを言語化することができなくなります。
このような状態の患者の方に、左視野に「笑え」というメッセージボードを出したところ、指示を意識できないにも関わらず、笑い始めたのです。患者の方に理由を聞いたところ、先生の顔が面白かったからと言ったそうです。
つまり、左脳と右脳には別の人格が存在しており、それを認識できない患者の方が、自分の行動に整合性をとるために事後的に理由を作ったということです。この実験から、記憶は自ら作り出すことができることもわかります。
功利主義
最後の章、第五章は「功利主義」です。
この章で一番驚いたのが、人間の政治的な立場でさえも進化論で説明できる部分があるということです。詳しくは以下にまとめていきます!
そもそも功利主義とは?
功利主義とは、「最大多数の最大幸福」の原理として知られるものです。幸福を「効用」として計測可能なものとして捉え、効用を最大化するものが功利主義になります。功利主義はゲーム理論で最適なルールを決めればよく、均衡に収斂していきます。
功利主義が均衡に収束するのに任せておけば良いのではと感じるが、実際はそうではありません。なぜなら、純粋な功利主義は道徳を無視するものになりうるからです。(例:いじめを最小化したいなら、みんながひとりの人間をいじめれば被害は最小化する)この道徳の基盤になるのが、「正義」です。
正義とは何か
では、正義とは何なのでしょうか?
本の中では、正義とは娯楽であると述べられています。人間は進化のなかで、快楽を正義とし、不快なものを悪としてとらえます。復讐劇に背徳的な面白さを感じるのは、自然で生き残るために必要なものであったからです。
フランスの国旗は、「自由」、「平等」、「友愛」の3つ正義を掲げているが、これはチンパンジーにも見て取ることができます。チンパンジーの世界でも強奪は認められておらず、(私的所有権がある)、不公平を認識すると激しく怒るのです。ご存知の通りチンパンジーにはボズザルとそうではない猿がおり、ピラミッド型の共同体があります。
衝突する正義
進化の過程でチンパンジーと同様に、上記の3つの正義を持っているとすると、3つの政治的な立場が生じることになります。
①自由を求める「自由主義」
②平等を重視する「平等主義」
そして、これらは全てを同時に叶えることができない、トレードオフの関係になっています。
正義の基準はどこにあるのか
全てを叶えることができないトレードオフな環境のなかでは、どのように正義の基準を決めれば良いのでしょうか?これに対してひとつの答えを出したのが、ジョン・ロールズの「格差原理」です。格差原理とは、自分が生まれてくる条件がどのようなものか全くわからないときに全員が納得できる基準が正義の基準だというものです。
この格差原理を引き継いだのが、アマルティア・センです。センは、格差原理に新自由主義の考え方を導入しました。基本的には人々の労働生産性を高めるために効率的な市場で自由に競争をさせます。ただし、人々が等しい機能やポテンシャルが発揮できるように努力する必要があるとしています。センは、パイを大きくするために、功利主義で「機能と潜在能力の最大化」を目指すべきだと主張したのです。
本を読んで
本一冊でここまで驚きと発見があることってそうないんじゃないかと思えるほど面白い本でした。「読まなくていい本の読書案内」ですが、読みたくなる本が増えるそんな本です。
また、著者は過去のパラダイムにすがる人々について繰り返し記述しています。過去にすがるのでなく、新しいものを受け入れる柔軟性と素直さはこれからも持ち続けたいなと感じました。